磯崎新 追悼

こんにちは、バンブー社長です。
Bambooコンストラクションマネージャー金野さんの2回目のコラムです。
建築愛の深い金野さんの感性は非常に勉強になります。
ぜひ、ご覧頂ければと思います。

磯崎新 追悼

前回のコラム【村野藤吾と丹下健三】を投稿させていただいた後に、
Casa BRUTUSで ”聖なる建築100<日本の美しい教会100選>
という特集号が出ているのを神保町の東京堂書店で見つけました。

東京カテドラルと平和記念聖堂が大きく取り上げられているのを見て、
「投稿時期がずれていたらパクリと思われたなぁー」
と買わずにそのまま平積みの本の山に戻したのでした。
(はい、Casa BRUTUSは買いません)

そのコラムにも少し書かせてもらいました磯崎新が昨年末に逝去し、
今回は自分にとっての磯崎新について少し書かせていただき、冥福を祈りたいと思います。

磯崎逝くは、
毎年バンクーバーから届く自分の先輩からの年賀メールの中で、
「自分にとってのスーパースター磯崎さんが亡くなられました。」
と書かれていたことで初めて知った次第でした。

すぐにネットで調べてみたのですが、
昨年12/28に沖縄の自宅で老衰によって死亡と書かれており、
事務所も住居も沖縄に移っていたのもそこで初めて知りました。

磯崎事務所は昔乃木坂にあり、
現在の東京ミッドタウンの安藤忠雄設計21_21DESIGN SIGHTの裏手にあった
(坂倉準三事務所と隣り合わせだったような)記憶であり、
沖縄に移住していたとは知りませんでした。

<余談ですが>

私が20代のころに青山一丁目から六本木に向けてクルマで走っていた時の事です。

乃木坂辺りの横断歩道のないところを、目の前で手を挙げて横切って行ったのが磯崎新でした。

黒いコートに黒い手袋で、すぐに「磯崎新だ!」と気付いたことを、今でもすごくよく覚えています。

磯崎新の建築

磯崎新の建築は東京都内ではあまり目にすることがありません。

中央線荻窪辺りの吉祥寺向かって右手のダブルヴォールト屋根の住宅や、
武蔵野市立図書館横の建築物などは磯崎臭が漂っていますが定かではありません。

お茶の水のカザルスホール(今は日大の施設)くらいでしょうか。
磯崎は初期に住宅も設計しており、ヴォールトの屋根はひとつのアイコンです。
(学生のときに麻布か六本木辺りに磯崎設計の住宅を見に行った記憶があるのですが)。

磯崎の建築については、
前回の村野藤吾や丹下健三の分かり易さ(見て素直に感動できる)とは違う種類のもので、
はっきり言って期待して見に行くとかなりがっかりすると思います。

自分も、初期代表作の「大分県立図書館」
その後の「北九州市立美術館」「群馬県立近代美術館」「ハラミュージアムアーク」「なら百年会館」「静岡グランシップ」
などを見に行っていますが、期待を裏切られることが多いです。

それは何故かというと、
磯崎のドローイング、パースはとてもカッコよく、
特に「なら百年会館」はコンペのパースで鷲づかみにされたので、
現物との違いには、かなりがっかりしました。

完成した後すぐに見ているので外壁の瓦タイルがかなり茶色く、
コンペパースの黒い外壁とは違和感ありましたが、
その後の経年変化でパースの色に近づいてきているかも知れません。

 ※ちなみに、その磯崎のドローイング(シルクスクリーン)は
  ルイヴィトンのスカーフの柄にもなっています。

<つくばセンタービル>

その磯崎の国内での代表作といえば「つくばセンタービル」となります。
実は、昨年、ある会社からお声掛けをいただき、
「つくばセンタービル」改修工事の設備(空調換気・排煙設備)を手伝わせていただきました。

「つくばセンタービル」の一番の特徴は、
地面を掘り下げた部分にミケランジェロのカンピドリオ広場を引用したという広場が最大の見せ場(私見です)と思っており、
それを取り囲む建築は四角や三角といったモチーフ(テキトーな表現ですみません)で構成されたいわゆるポストモダン建築で、
ミケランジェロのルネサンス様式とポストモダンを対比させることが磯崎の設計主旨だったのではと思っています。

昨年のこの内部の改修工事に携わってつくづく思ったのは、
磯崎にとっての建築は、コンセプトが全てであって、
極端に言ってしまえば、内部空間などどうでもいいと思っていたふしがあります。(あくまで私見です)

もっと極論を言えば、
ドローイングの姿が理想とする建築の完成形であって、
出来上がった実物の姿など興味がなかったのではという感じがします。

有名な話ですが、
磯崎は「つくばセンタービル」が廃墟になったイメージを発表しており、
建築物が退廃していく姿にも「意味」を持たせようとしていました。

<ハラミュージアムワーク>

自分にとっての磯崎の推し建築は、
群馬の「ハラミュージアムアーク」でしょうか。

品川にあった「原美術館」の別館として建てられましたが、
品川の原美術館が取り壊しになり、現在は「原美術館ARC」と改名され、
収蔵品もこちらに纏められているようです。

建築もいいのですが、
収蔵品に国宝の青磁の花瓶があり、これは一見の価値があります。

<大分県国立図書館>

ちなみに、大分県立図書館(現アートプラザ)ですが、
大分に用事があるとなぜか見に行ってしまい、
その度になぜ外壁をリニューアルしないのか?と思ってしまいます。
(打ちっぱなしなのでなかなか難しいかも知れませんが)

もしかしたら、
それは、磯崎が朽ちていくものに安易に手を入れるのを許さなかったのかもしれない。
そんな想像をしてしまいます。

村野や丹下、その他大勢の建築家が

「後世に残る(永遠の)建築」

を意識しながら設計しているとして



磯崎は

「永遠ではない建築」

を意識していたのでは?




それは、私の深読みかもしれません

最後に、

磯崎新逝去で「Casa BRUTUS」が磯崎の特集を組むかもしれませんが、自分は買いません‼(笑)


金野 良紀
株式会社SPINNA BAMBOO コンストラクションマネージャー

長年、外資系の流れを組む建築設備系会社で技術責任者を任され、
建築工事、外資系事務所の構築、移転プロジェクト等、多岐に渡る案件に携わってきました。
特に汎用系の大型コンピュータ用マシン室構築の設計・工事に関わってきたことから、
特殊設備(空調、電源、消火設備等)に関して豊富な経験と、高い知識を有していると自負しております。
2005年 独立、大型プロジェクトの設備設計、コンストラクションマジメントの実績を積み上げてきました。
2022年 SPINNA BAMBOO設立に参画、専門家として本物の価値提供をこれからも追求していきます。

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