見積査定・金額交渉の実態(前編)

Bamboo社長のプロジェクトマネジメント論
< コスト監理 >

こんにちは、バンブー社長です。

前回、エモイ内容のコラムを書いてしまったので
今回は「生生しい金の話」をしたいと思います。

情報量が多くなってしまいましたので、前編/後編の2回に分けさせて頂きます。

コストダウン効果

建築のプロジェクトマネジメントとは

 ◆スケジュール監理
 ◆設計監理
 ◆コスト監理
 ◆品質監理


この4大要素によって構成されています。
SPINNA BAMBOOのプロジェクトマネジメント

その中でもコスト管理は、
お客様のメリットが非常に分かりやすいです。

要するに、
プロジェクトマネジメント費に1500万円支払ったとしても、
そのマネジメント(入札や見積の査定・交渉)によって、
建築工事に支払う金額が1500万円ダウンすれば
発注者はプロジェクトマネジメントを実質無料で受ける事ができます。

バンブー社長

なんて、ちょっと安っぽいセールストークみたいになってしまいましたね。^^;
ただ、これはリアルな期待値として持って良い感覚なんです。


例えば、
プロジェクト総予算が3億円のPM&設計費っていくらくらい?

と、聞かれたら私なら1500万円と回答します。
(一声でいうと、というレベルの話ですよ)

そして、
コストコントロールができるプロジェクトマネージャーなら、
3億円のうち1500万円(5%)程度を減額するのは簡単です。

Bambooコラム

企業の忖度と利益相反


一方で、査定・交渉をサービスメニューに含めていない会社も多くあります。


その理由は3つあります。

3つの理由

 ①そもそも、そのスキルを持った人材をアサインできていない。
 ②査定金額で交渉成立させられる保証がない。
 ③ゼネコン・デベロッパーを敵にまわすのが怖い。

バンブー社長

①はリソースの問題
②は力加減の調整や条件をまとめるテクニック、つまり実力の問題。    
③は、PM会社自身の忖度によるものです。

一般的に考えれば、
PM設計会社よりもゼネコンデベロッパーの方が規模も大きく、
建築業界の中で大きな影響力を持っている事になります。

建築業界も、
例えば都内のオフィスビルなどと条件を絞り込むだけで、
実は意外と狭い人間関係の中で回っています。

それは、バキバキに査定交渉した相手(A建設やB不動産)が、
次の案件のお客様になる可能性があるって事です。

バンブー社長

もちろん、自分の立ち位置を優先していたら、
発注者の代理人であるプロジェクトマネージャーなんて勤まりません。  
発注者の利益を最優先にするのがPMの義務ですからね。

とは言え、なんですよ。笑


特にある程度大きな規模のPM設計会社が、
その先にある自社の忖度を意識していないとは考え辛いですよね。


そういった事情もあり、
積極的に見積査定金額交渉といった
サービスの提供を謳わないPM会社も多いのです。

Bambooコラム

「査定・交渉」と一括りに考えられる事も多いのですが、
「見積査定」「金額交渉」は別のパフォーマンスだと考えた方が良いと思います。


 「査定」
  定量的な根拠のもと、交渉の余地がある金額を指摘すること。


 「交渉」
  諸条件を鑑みて落着点を見定め、適切な力加減で折合いをつけること。


両者は使う筋肉が全く違います。

工事金額とは
ー 見積書の読み方 ー

チェックポイント

工事にかかるお金とは、以下の3つに分類されます。

 A_材料費 (木材やガラスなどの建材を購入する費用)

 B_施工費 (職人さんが、それを組立てる費用)※人工と言います

 C_諸経費 (現場を管理する費用、各工事会社の経費※元請・下請




これが1億円のオフィス入居工事であれば、こんな割合になります。

<Ⅰ>
  A_材料費 4000万円 (40%)

  B_施工費 3000万円 (30%)

  C_諸経費 3000万円 (30%)※現場管理費+元請の経費+下請の経費




そして、その1億円の見積書は、こんな金額比率で提示されます。

 <Ⅱ>
  1_仮設工事  500万円  (材料費+工事費)

  2_建築工事 3500万円 (材料費+工事費)

  3_電気工事
 2000万円 (材料費+工事費)

  4_空調工事 1500万円 (材料費+工事費)

  5_防災工事 1000万円 (材料費+工事費)

  6_諸経費  1500万円 (現場管理費+会社経費)




  建築工事

  設備工事

  と分けて考える事が多いです。
  そのコスト比率は工事をおこなう建物の性質によって変わります。

バンブー社長

小型の雑居ビルであれば建築工事のウエイトが大きくなります。
一方で、大型のインテリジェントビルであれ設備工事のウエイトが大きくなります。
※大型ビルほど、電気・空調・防災設備を実施する負荷が大きくコスト増になる為。    

ゼネコン

<Ⅰ>C_諸経費が3000万なのに、
<Ⅱ>6_諸経費が1500万なのはナゼ??
と、思った方は鋭い!

<Ⅱ>は元請会社(ゼネコン)から提出される見積書の為、差異が発生してるんだ。 



建築の見積は大抵の場合、
建築工事会社(壁を立てたり、表層の仕上げをする会社)が元請けとなり、
設備工事会社(照明器具や空調機を設置する会社)がその下請けになっている事が多いです。


その為、

<Ⅰ>で表した設備工事会社の諸経費は、
<Ⅱ>では3・4・5の金額に含まれています。


そして、(元請)建築工事会社
設備工事会社の総工事費(材料費+工事費+諸経費)にも経費を上乗せします。

ゼネコン

<Ⅰ>諸経費の計算は 
設備工事会社の諸経費15% + 元請会社の諸経費15%
合計30%という意味だぜ。 


もう少し、見積の詳細に入っていきます。
例えば4000円の照明器具(ダウンライト)をつける工事は、こんな感じで積算されます。

ダウンライト設置工事

A_材料費      4,000円

B_工事費      3,000円

C1_下請け経費    1,500円

C2_元請け経費    1,500円

合計        10,000円

その見積項目を査定では、以下のようなチェック手順をおこないます。

⇒A_照明器具のように定価がある商品であれば、市場価格に適した掛け率になっているか?

_例えば、
電線を1m配線するのには0.03人、
ダウンライトを1台設置するには0.2人など、
職人さんの労力を国土交通省が定めた基準があります。
その係数をベースにして工事費(工数)が適切か計算します。
※実際には、照明器具への配線や諸条件による低減率まで鑑みます。

⇒C_その工事に対して要求する工事会社の管理費・会社経費が適切な値であるか?

バンブー社長

商品の掛率が高くないですか?
歩掛(工数の基準の事)計算が間違っていないですか?
諸経費が高すぎませんか?

そんな主張を書面で提示する事が見積査定です。

効果と優先順位のバランス
ー 状況判断 ー


但し、工事金額に基準値があるからといって査定金額は一律ではありません。
鹿島建設と〇△工務店(←町場の工務店)を同じ金額で査定しても意味がないからです。

ゼネコン

Aグレードビルのオフィス入居工事を〇△工務店が請け負うことは不可能だ。  
そこの入居工事は、スーパーゼネコンが指定工事会社になってるからな。 
なぜならば、一見の工務店に、請負範囲のみを考えた工事をされてしまうと、
ビル全体(他のテナント)に迷惑がかかってしまう可能性があるからだ。


鹿島建設の見積が〇△工務店よりも高いのは当然です。
そこで、もし〇△工務店向けの査定をしても関係者全員が困るだけですよね。

それは、帝国ホテルでドトールコーヒーの値段を期待しているのと同じです。

状況を鑑みた常識(経験値に基づくコスト感)で査定して
金額の折り合いをつけなければプロジェクト全体が終わらなくなってしまいます。

それは本末転倒ですよね。

バンブー社長

「安ければ安い方が良い」は、当たり前の話です。
それを最重要プライオリティとして、スケジュールや品質を犠牲にしますか?



冒頭では「コスト管理」は
最も分かりやすいメリットだとお伝えしました。


でもそれは分かりやすいだけで、
本質的な最重要事項ではないと思います。


要するに、大切なのは
ちゃんと前提を理解した上で、実施効果を考える事です。


プロジェクト全体を最適化するプロジェクトマネジメントの中で
見積査定は、その1タスクでしかありません。




<後編に続く>

新村裕介
株式会社SPINNA BAMBOO 代表取締役

飲食店の調理師、店舗の工事会社、大手不動産系列の建築デザイン会社、大手什器メーカーのPM部門を経て、
2022年8月 株式会社SPINNA BAMBOOを設立。
ブランドショップの工事担当から、オフィスづくりの法人営業、ビル改修のコンストラクションマネージャー、
総予算100億円を超えるオフィス移転のプロジェクトマネージャーまで、多種多様な実績を積んできました。
この長年の経験を活かして、常にプロジェクトの入口から出口までの一気通貫した全体視野を持ちながらも
それぞれのステージに必要な役割に特化した、専門性の高いパフォーマンスを発揮します。
また、某大手IT企業での総務マネージャー経験もある為、インハウスの目線で課題を掴む事も得意です。

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