ワークスタイルのDNA

相原毅の私的なオフィス論#5

オレたち〇〇〇〇〇族

ひと昔前ですが、
我々昭和引きずり世代新橋界隈焼鳥屋的な会話の中で、
自分たちの大人しい性格を揶揄した表現として
「我々は農耕民族だからなぁ」なんて言葉をよく耳にしました。

だけど、実際年表で狩猟時代と農耕中心の期間を比較してみると、
「狩猟・採集」を生活の糧としていた期間がものすごく長くて、
農耕が始まったのは3000~2700年くらい前、工業が生活の中心になった近代・現代は、ほんの最近ってなボリューム感です。

大雑把にまとめたので細かい年代はツッコまないで欲しいのですが、
だいたい世界中どこでも、大きな差はないので、
西欧が狩猟的文化でアジアが農耕的文化なんてのは、
まったく頓珍漢(イカス漢字!)な考えだということが分かります。

ここからは色々なところからの受け売りになりますが、
それぞれの時代で個人が担う役割、立ち位置の違いについて考えてみましょう。

狩猟・採集の時代は自然からの授かりものである獲物を求めて移動することが生活の基本となるので、
自分もしくは自分の属するキャラバンで一緒に運べるもの以外は保持出来ない。
つまり資産を蓄えるって概念がないわけです。

また大型の獲物を狩るときなどには、
いろいろな役割を分担する必要があります。

獲物を見つけ、追いたて、誘い込み、仕留める、処理し解体し運搬し調理し、
はたまた皮や骨を使って衣服や道具を仕立て、狩りに不可欠な犬の世話をする、
それぞれの役割がきちんと機能しないとキャラバンが成立しなくなってしまいます。

役割ごとの重い軽いは多少あるものの、
それぞれが違う分野で責務を果たすという点では、ある意味平等な集団(社会)とも言えるでしょう。


農耕の時代になってくると様相が変わってきます。
まず農耕をおこなう土地を手に入れなくてはいけません、

収穫量は作付面積に比例しますので、
より多くの土地を持っているヒトはより多くの収穫を得られることになります。

土地=資産を持つことで
「富める者」と「そうでないもの」の差が生まれたのがこの時代だと思われます。

またこの時代の画期的な発明として、
収穫物を保存する技術が生まれたことが挙げられます。

保存された収穫物は、
共通の価値観に基づいて他のものと交換する文化→貨幣の元になる考え方も農耕の発展がもたらした進歩の一つでしょう。

ここで生まれた貧富の差は、
個々の役割の違い・すなわち「しごと」の違いにつながっていきます(やっとオフィスコラム的な展開)。

多くの土地を所有している「富める者」とその他の関係

自分では作業出来ない → 土地を持っていないひとに貸して、収穫の一部を使用料として徴収する

自分では作業出来ない → 収穫の一部を分配する約束で作業を委託する

だいぶ現代の企業とワーカーの関係に近いものが見えてきています。
ただこの関係の中では「富める者」が圧倒的に強いので、たとえその土地の収穫量が少なかったとしても

→ 使用料は変わらず取る

→ 収穫量に合わせて分配量を減らす

といった、強者ゆえの横暴狼藉搾取が可能です。

ぶっちゃけていえば、
作業する側の「そうでないもの」は替えが効く(誰でも良い)ってことです。

ハンターか? 農夫か?

スタートアップの企業って、
狩猟民族のキャラバン的な要素を強く感じます。

少数のメンバー個々の役割、責任範囲が明確で、
各々がプロフェッショナルな立ち振る舞いをしないと
キャラバンはたちまち頓挫してしまうでしょう。

しごと = 狩りの場 
のイメージがぴったりときますし、
実際にその場に立たれている方々の意識もそれに近いのではないでしょうか。


但し少数精鋭、小回りの効く構造ゆえ、
一部のピースの欠けや不意の損失によって、
急に立ちいかなくなる危険性を秘めているとも言えます。

徐々に規模を拡大しなければならないのは事業を続けていく中のステップで、
それらの危険をリカバーできるようメンバーを増やしたり、
不慮の事態に備えて資産を確保したりと、
安定性を求めていく上で必然の対応ともいえるでしょう。

片やワタクシを含めた、
そこそこの規模の組織に属するワーカーは、
多かれ少なかれ農耕時代の「富める者」「そうでないもの」
の関係性を引きずっているというのは言い過ぎでしょうか?



ブラック企業なんて表現がある反面、
「働かないおじさん」なんて集団にぶら下がる労働者がいたりと、
強者弱者のせめぎあいが繰り返されてきたなかでも、
ず~っと奥底には、農耕時代から続く関係性が存在し続けています。



企業人として長く組織に携わっていると、
その組織の中での立ち位置が気になり、自分がどう見られているか?
つまり雇用者の視点を強く意識するようになります。

それが悪いことではないのですが、

自分が本来社会と向き合う目的、ワタクシ事であれば

「ニッポンのオフィスになにがしかのプラスアルファを投じ、それが社会全体のエネルギー向上につながれば」

みたいな根源的な想いを見失ってしまう要因になるのではという懸念があります。



しかし、思い出して欲しいのです!

我々の中にはなが~い狩猟時代を生き抜いてきた
ハンターとしてのDNAが綿々と受け継がれているはずです。

いち企業人であったとしても、
社内の視線ばかりを気にする「小作農」的なポジションに甘んじず、
常に「獲物」を狙う狩猟民族的気質を自らのなかに呼び起こし、
幾多の困難が待ち受ける2023年に力強く立ち向かおうではありませんか!


改めて申し上げます。

全てのオフィス構築に携わる皆様!
オフィスの未来はニッポンの未来です。
我々のミッションは崇高にて長大、ともに精進いたしましょう。

御機嫌よう

相原 毅
株式会社イトーキ ワークスタイルデザイン統括部 
コンサルティングセンター シニアディレクター

1991年からインテリア設計事務所にてキャリアをスタート。
主に丸の内界隈のオフィス移転・改修等を中心にインテリアデザイン設計及びプロジェクトマネジメント、
コンサルティングを担当、2020年より現職
2000年~2006年、三菱地所
ビル管理部 新ビルテナント工事請負室に出向、丸の内再開発事業に携わる
主幹プロジェクトにて2010年日経ニューオフィス推進賞、
2018年日経ニューオフィス経済産業大臣賞、並びに日本ファシリティマネジメント大賞受賞
工作、エレキベース、自転車、少年野球が好き

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    執筆者:相原 毅    株式会社イトーキ  ワークスタイルデザイン統括部  コンサルティングセンター  シニアディレクター
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