ニッポンのハタラキモノ
相原毅の私的なオフィス論#7
アリのごとく働く?
「蟻」はハタラキモノってイメージがありますよね?
でも我々ニッポンジンも高度経済成長期から80年代末バブル期頃は
ニッポンジン=ハタラキモノみたいな世界的なステレオイメージで捉えられていた事実があります。
外から見るのと中から見るのでは、風景が違うのはどこでも同じで、
当時のニッポンジンだって、ボンクラ、ゴクツブシ、ロクデナシなどいろいろなタイプがいたわけで、
その中で比較的比率の多い層が、諸外国と比べてハタラキモノ的に見えていただけなのではないかと思います。
ところでこんなのご存じですか?
蟻の巣をつぶさに観察すると、
働きアリの集団ぜんぶがハタラキモノなんてことは全然なくて、上の法則のように当てはまるそうです。
20% : めっちゃハタラキモノ
60% : そこそこハタラク
20% : ハタラカナイ
恐ろしいことに2割のめっちゃハタラキモノのアリたちを
色んな巣から集めて、ハタラキモノのみ集団をつくっても、
いつのまにか2-6-2の比率で6割のそこそこと2割のボンクラに
ダウングレードしてしまうそうです。
この理論の面白いのは冒頭に「どのような組織・集団も」とあるところです。
つまり蟻だけでなく集団での生活様式を持っている我々ニンゲン然り、
渡り鳥の群れ然り、いろいろな適応範囲をくくっても、
その落ち着く先は同じってわけですね。
逆に考えると、メンバー全員がゴリゴリの意識高い系24時間働きマンだと、
組織としてはうまく機能しないってことなのかもしれません。
スタート時点ではそのような状態だったとしても、自分の立ち位置を見極めていく中で、
多くのメンバーが自然とフツーメンになっていくのもわかるような気がします(やっぱり人間だもの)。
さて「新しいオフィス」を考えるとき、
20%ー60%ー20% どのメンバーを想定して考えていくべきでしょうか?
比率で言えば最も多数を占める60%のところを標準として考えていくのが当然ですよね?
だけどワタクシ含め多くのオフィス企画に携わる方々はどーしても60%のフツーメンではなく、
上位の20%(めっちゃハタラキモノ)を基軸に考えてしまう傾向にあります。
だってその方が考えやすいし、そうであって欲しいから。
実際、色々な提案やローンチした先進オフィスを見ていると、
その部分のギャップを感じるものって少なくないと思います。
そうした多くのオフィスで、働き方やその考え方をレクチャーする。
いわゆるチェンジマネジメントセミナーが望まれるのも、
本来はフィットしていない服を無理やり着るための「お直し」のように感じてしまうのは、
自分事ながら少々意地悪な見方でしょうかね?
さて、ここからは本コラムのタイトル「私的」部分をフィーチャーして
ワタクシが今現在考えるオフィス像を模索していきたいと思います。
あくまでワタクシの雑感であり、
これが正しいとか、
未来はこうあるべきとか、
ではないことを念頭に読んでいただけると幸いです。
ちなみにここで想定しているのは60%を占めるフツーメンのイメージになります。
極論言っちゃうと20%の超アクティブスーパーハタラキモノの方々って、
どんな環境であろうと結果を出してこられるので、
むしろオフィスなどいう形態は足枷になるだけなのかもしれませんので悪しからず。
個々の関係性と距離感
これまで書いてきたコラムの中で、
「働くこと」を続けるためには効率や生産性だけでなく、
モチベーションを高く保ち続けるエネルギーとして、
他者との共感によるコミュニケーションが重要なことを述べてきました。
ここで問題となるのが個人固有のテリトリー/距離感の違いです。
心地よいと感じる他者との距離は、相手によっても変わってきますし、
それを無理やり均等に割り付けられても不快でしかありません。
旧来の島型対向型のデスク配置は、
書類の流れ=デスク配置をベースとした考え方なので、
社内処理の順番に担当者のデスクが並べてあり、
コミュニケーション云々は特に配慮されていません。
割り当てられた席によって「当たり・はずれ」が大きいことは、
経験の長いオフィスワーカーなら実感されたことが多いと思います。
それぞれが心地よい距離感を保つためには、
それを個々でコントロール出来ることが重要になってきます。
近年様々なオフィスでフリーアドレスデスクが採用されていますが、
その多くはスペース効率や、業務に合わせた座席形態の選択が理由となっています。
ワタクシが重要視するのはそれらではなく、
個々の距離感のコントロールが自由であることと捉えています。
距離感が要因となるストレスって、実は結構多いですよね。
健全な関係性の構築には、まず自身の精神状態が健全であることがなにより大事だとワタクシは強く思います。
「集まること」の意義
2020年2月頃からの新型感染症の急速な拡大は
我々の働き方・オフィスのあり方について大きな影響を及ぼしました。
テレワーク環境・機材、コワーキングスペースの普及、オフィス不要論、ビルサービスの変革等々、
昨今のオフィス回帰に至るまで様々な考え方の検討・実践が行われてきましたが、
そのなかで最も大きな争点となるのが、リアルに「集まること」の意義だと思います。
諸外国に比べ、人種や民族性の違いが少ないニッポンでは、
阿吽の呼吸や空気を読むといった、いわゆるハイコンテクスト文化が強く、
それ故テレワーク/モバイルワーク(言葉・文章で意図を伝えあう)ことが向いてないのでは?と言われてきました。
しかし近年、ローコンテクスト文化の傾向が強い西欧諸国でも、
オフィス回帰の動きが表面化しているのは何故でしょうか?
これまで述べてきたように、今の仕事を今こなしていくことについては、
テレワーク/モバイルワーク中心の活動で何ら問題はありません。(2~3年の単位)
ただし5~10年の単位で企業運営を考えた場合、
そこには新しいアイデアの創出や変革、働き続けるモチベーション、
継続的に組織を運営していく人材配置などが不可欠になってきます。
個々の共感力を高め、
お互いに理解しあうことが将来的な組織運営や個人の成長につながっていくと考えると、
それらをより効率良く進められる「集まること」の意義が強く、
そして明白になっていくのでないかと考えます。
もちろんテレワーク/モバイルワークを否定するわけはありませんし、
多様な人材の活用には大きな効果があるのは間違いないと思います。
但し問題なのは6割フツーメンの方々って、
「公平性」を結構気にするんですよね。(妬み嫉みの裏返しか)
・自分は出社中心で頑張っているのに
(↑頑張っている?)
・誰それはずっとテレワークでずるい
(↑ずるいって何?)
こんな頓珍漢な指摘したりね(これは人間だもの、とは言えんね)。
こういった細かい問題はあるにせよ、
大きな視点でのワタクシ的なオフィスのあり方としては
「集まる」カタチを中心にモバイルワークを適宜組み込んでいく状態が望ましい。
そんなふうに考えています。
今回も前段の枕話が長くて(反省ナシ)
後半なんとなくコンパクトにまとめた感が強いので、
また個々の事象の掘り下げは別の機会に改めさせて頂ければと思います。
いつもながら長文雑文乱文にお付き合い頂き、誠に有難う御座いました。
御機嫌よう。^^
相原 毅
株式会社イトーキ ワークスタイルデザイン統括部
コンサルティングセンター シニアディレクター
1991年からインテリア設計事務所にてキャリアをスタート。
主に丸の内界隈のオフィス移転・改修等を中心にインテリアデザイン設計及びプロジェクトマネジメント、
コンサルティングを担当、2020年より現職
2000年~2006年、三菱地所
ビル管理部 新ビルテナント工事請負室に出向、丸の内再開発事業に携わる
主幹プロジェクトにて2010年日経ニューオフィス推進賞、
2018年日経ニューオフィス経済産業大臣賞、並びに日本ファシリティマネジメント大賞受賞
工作、エレキベース、自転車、少年野球が好き
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- 私的なオフィス論執筆者:相原 毅 株式会社イトーキ ワークスタイルデザイン統括部 コンサルティングセンター シニアディレクター