見積査定・金額交渉の実態(後編)

Bamboo社長のプロジェクトマネジメント論
< コスト監理 >


こんにちはバンブー社長です。
今回は「見積査定・金額交渉の実態」後編です。
前編をご覧になっていない方は、コチラを先に読んで頂ければと思います。

見積依頼とは

工事会社の見積書のレベルは、
「見積依頼」のレベルに起因します。


工事会社が正確な見積をする為には、設計図だけでは不十分です。

もちろん、正確な情報が記載された図面が揃っている事を前提として、
その工事条件(工程表など)が必要です。


つまり、

どんな物を

どんなやり方で

工事するのか、です。

その精度が80%なのであれば、当然提示される見積書の精度も80%であり、
その見積査定の精度も80%(20%の不確定要素を鑑みての対応)となってしまいます。

必要な情報が全て揃えられている「見積依頼」は多くありません。
不足情報の部分は、工事会社の判断(裁量)によって判断される事になります。

裁量と言えば聞こえは良いけど、
要するに、予備の金額として見積書に含まれている。
つまり、余計なコストが発生している。って事なんだぜ。

見積査定の前提条件

見積査定とは、
「見積書に記載されている内容が正しい」
それを前提にしている事が一般的です。


コンセントが120個と書いてあれば、その個数を信じる。

必要な電線が300Mと書いてあれば、その数量を信じる。

夜間工事と書いてあれば、必要な条件だと信じる。

基本的に、図面や条件書と比較する事はしません。
それは、見積査定ではなく、見積作成の業務ですからね。



図面に書いてあるコンセントが115個だったとしても、
「予備でプラス5個を見込んでおいて」と依頼されているかもしれません。

電線、ちょっと多くない?と思ったとしても、
迂回した配線ルートが必須なのかもしれません。
※明らかに違和感のある数値だったら、もちろん指摘しますよ。

結局、査定業務の中で
見積内容と見積図面・見積条件の精査までを実施すると
その工数が大きく膨らんでしまい、折角のコスパが悪くなってしまいます。

その為、以下のような原則スキームを意識しておいた方が、各タスクの品質も担保できるでしょう。

①_見積内容見積図面の正誤性チェックは、設計者がおこなう。

②_見積内容見積条件の正誤性チェックは、PM(コンストラクションマネージャー)がおこなう。

③_正しい内容で精査されている、見積金額のチェック査定者が実施する。


あくまで、
設計者、PM・CM、査定者
各担当責任者がいる場合は、上記のような棲み分けが良いです。

もちろん、
こんなに手厚く各役割の人が揃っているとは限らないですし、
同じ人が役割を兼務している事も多いですよね。
(むしろ、その方が多いパターンかな)

ただ、査定業務を実施する際には、
この原則からの派生スキームだと考えた方が、整理して考えられますよね。

金額交渉をする為に


査定の後におこなう「金額交渉」も
「見積依頼」「見積査定」と同じ事が言えます。

一番強いのは、交渉する側に付け入る隙がない状況です。
不確定要素が多ければ、それは負い目になってしまい、交渉の足枷になってしまいます。


【精度の高い見積依頼】 ⇒ 【精度の高い見積チェック】 ⇒ 【精度の高い見積査定】 
その上で【精度の高い金額交渉】が成立します

Bambooコラム



もう一つ重要なのは、交渉する為に必要な時間です。
ネゴシエーションに対して、Yes/Noの回答期間を設けるだけでなく、
オプション案の費用対効果を検討する期間まで考慮しておくのがベストです。

金額調整の選択肢

 ◆_Aの材料をBに変更したら安くなるでしょう。

 ◆_メーカーを変えたら安くなるでしょう。

 ◆_工期を延ばして、夜間工事を減らせば安くなるでしょう。

このような選択肢を使える余地がありますか?

超アタリマエの事を言います。

それは、
その時間が、有るか?無いか?
それだけの問題です。



工事発注リミットから査定・交渉期間を逆算して、
余裕をもったタイミングで見積書受領のスケジュールを予め組んでおくべきです。


もし、その時間がなければ、
金額交渉という駆け引きを圧倒的に不利な状況でおこなうハメになります。


発注リミットの3日前に受け取る見積書なんてポツダム宣言みたいなものです。
条件交渉をしていたら3発目の爆弾を落とされてプロジェクトが崩壊してしまいます。

その前に無条件降伏するしかないのです。

建材・工事費の変動
ー コスト管理の難易度 ー

最後にもう1つ、近年の建材価格の高騰についてです。
ここ1~2年の物価高騰は(私の経験上では)過去にないほど大きなものです。


例えば、軽鉄(LGS)の最大手メーカーである桐井製作所では、
約1年間の間に20%の値上を4回おこなっています。
それはつまり、値段が2倍以上になったという事です。

 100×1.2×1.2×1.2×1.2=207


その他、木材・繊維・樹脂・ガラスなどの建材価格も軒並み値上がりラッシュです。

数か月前までは原油価格の高騰に起因していた部分が大きかったですが、
ここにきて円安がダブルパンチとなり、価格上昇の歯止めが利かない状況です。

オフィス移転プロジェクトは、
工事を発注する1年以上から準備を始める事も多くあります。

プロジェクトの開始時期に、
1年後に発注する想定金額を設定の上で設計を進めていく事になります。

これをプロジェクトバジェットと呼び、
その金額はプロジェクトマネージャーの経験値や、工事会社の実績などから算出されます。

ところが、今は1年前に想定したバジェットが大幅に上振れしてしまう状況に陥っています。

1年前はウクライナ問題もここまで深刻化していませんでした。
1ドルは110円でした。
今とは状況が全く違います。


プロジェクト期間中はタイムリーに市場価格(の変動)を把握し、
もしバジェットとの差異が大きくなりそうであれば、
早めに解決策の検討(予算を追加するか?グレードを落とすか?その他の条件を緩和するか?など)
を進めておく必要があります。


見積書を受け取ってからあたふたしても、後の祭りです。


そして、その査定・交渉についても、過去のデータに惑わされず、
その時の市状を正確に反映させた力加減で実施しなければ、
見当違いの協議に無駄な時間をとられてしまうので要注意です。


今までより、
見積査定・金額交渉の難易度は格段に上がっていると感じています。

その理由は建材価格の高騰だけではありません。

半導体の不足により照明器具や空調機などの基盤が関係する機器の納期が非常に長くなっている。
航路の不安定が続き、輸入商品の納期が正確に抑えられない。
このようなスケジュールの問題も、買い手側の交渉を不利にさせる要因となります。



コスト(安く)とスケジュール(早く)を天秤にかけながら最適解を導く為には、
相対的なバランス感覚と、常にアンテナを張っておき大切な情報をひろえる感度が重要だと思います。


そして、早く平和な世の中になってほしいものです。^^;

Bambooコラム

新村裕介
株式会社SPINNA BAMBOO 代表取締役

飲食店の調理師、店舗の工事会社、大手不動産系列の建築デザイン会社、大手什器メーカーのPM部門を経て、
2022年8月 株式会社SPINNA BAMBOOを設立。
ブランドショップの工事担当から、オフィスづくりの法人営業、ビル改修のコンストラクションマネージャー、
総予算100億円を超えるオフィス移転のプロジェクトマネージャーまで、多種多様な実績を積んできました。
この長年の経験を活かして、常にプロジェクトの入口から出口までの一気通貫した全体視野を持ちながらも
それぞれのステージに必要な役割に特化した、専門性の高いパフォーマンスを発揮します。
また、某大手IT企業での総務マネージャー経験もある為、インハウスの目線で課題を掴む事も得意です。

関連コラム

  • 設備設計の正体
    総合建築工事(建築・設備工事)金額の半分は設備工事の費用です。工事工程の半分は設備工事の期間に割り当てられます。消防法を遵守する為に必要なのは消防設備(設備機器)の機能・性能の担保です。
  • 見積査定・金額交渉の実態(後編)
    発注リミットの3日前に受け取る見積書なんてポツダム宣言みたいなものです。条件交渉していたら3発目の爆弾を落とされてプロジェクトが崩壊してしまいます。その前に無条件降伏するしかないのです。
  • 見積査定・金額交渉の実態(前編)
    1億円の工事見積書は、こんな感じです。  1_仮設工事:500万円 2_建築工事:3500万円 3_電気工事:2000万円 4_空調工事:1500万円 5_防災工事:1000万円 6_諸経費:1500万円
  • プロジェクト予算 - 発注金額の調整 -
    あなたが1000万円相当の業務を発注する時、どちらが有利な契約だと思いますか?  ①1000万円のサービスを600万円に減額する。②1000万円で1200万円分のサービスをさせる。
  • 入札の土俵
    入札・コンペは、発注者側にとって有利なアクションである事は間違いありません。但し、中途半端なアクションはかえってネガティブな結果に繋がってしまいます。
<一覧に戻る>