料理とオフィスデザイン、イベリコ豚の話

Bambooコラム

こんにちは、バンブー社長です。
今回は、昔ながらの戦友・飲み仲間
MINE代表 三浦圭太さんのコラムを紹介します。

趣味の料理とオフィスデザインの話

デザイナー仲間には、料理が趣味という人が結構多い。
自分で食材を買ってきて、下拵えをする。料理酒にはもったいない少しいいワインを買ってきて、飲みながらキッチンに立ってもいい。最近は、YouTubeを見ればほとんどの料理はレシピやコツを詳しく教えてくれるから、プロ気分で火入れをして、見様見まねで盛り付ける。自分で決めた時間に、ぜんぶの料理を同時に完成させる。楽しい。スラックの通知さえ切っておけば、ほとんどの場合邪魔も入らない。できたその瞬間に家族がテーブルについていなければ不機嫌になってもいいし、出すのが家族だけであれば大概はまあまあ喜んでもらえる。我が家では、出されたご飯に文句を言うことは決して許していない。

趣味であるかぎり、料理は楽しい。

いっぽうで、僕が仕事にしているデザインという世界は、一人でキッチンに立っている時のようにはなかなかうまく進まない。おおよそはデザイナーが定めるイメージに乗っかってもらい全体が進行していくのだが、実は水面下で何十人というステークホルダーの声にならない想いや、時には良からぬ思惑もうまくまとめながら、いくつものタスクを同時進行で物事を進める。即興のセッションみたいなもので、時には予期せぬ変化がたくさんある。料理のようにはどうもうまくいかない。

最近は、プロセスの中の分岐点で取るいくつか選択の結果によって、アウトプットが少し当初の想像とは異なるような、マルチバースな展開を受け入れて全体をまとめていくことが役割みたいになってきた。それが僕がやっているデザインという仕事であり、楽しくも辛いところでもある。

それで、せめてもの休みの日には、誰にも邪魔されずお酒を飲みながら料理をして、自己完結&自己満足にひたり、ストレスを解消する。

オフィスデザインに求められるニーズは、どんどん複雑化してきている。
複雑化する市場、それに即応するための組織の、さらに複雑化・多様化する課題を発見し、解決することを僕たちデザイナーは求められている。ひと昔は、課題解決がデザイナーの仕事だと言われていたが、2022年の今、待っていても誰からも明確に課題は与えられない。そもそも何が課題なんだ?というところからデザインの仕事は始まり、クライアントやステークホルダーやデザイナーが一緒に悩み、課題を定義するプロセスをデザインする必要に迫られている。しょうがない、多様化する世界を僕らも望んだのだから。

仲の良いイタリアンのシェフに、お前はいいよな、料理っていう一つの道を突き詰めていりゃあ良くて。シングルバースってやつ?僕なんかいつもいつもマルチバースでさア、などと言いながらカウンターで飲んでいたら、まあまあ怒られた。一応お前には話しながら出す料理とか順番とか酒とかも選んでんだけどな、だって。確かに。ゲスト同士の関係性や、その時の気持ちを考えて少しずつ出すもの変えてくれるもんな。今日も最初の一杯から、次何食べさせて何飲ませるか、突き出しから始まってある程度流れが決められていたに違いない。でも僕はどうしても日本酒が飲みたかったので、いきなりイタリアンの店で日本酒を頼んで出鼻を挫き、本当に申し訳ないことをした。それでも、ワイングラスになみなみと注がれた冷酒と一緒に、イタリアン風「このわた」が何も言わずに出てきた。いい店だ。

オフィスデザインとイベリコ豚の話

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ちょっとイタリアンではなく、スペイン料理の話になるのかもしれないが、イベリコ豚という美味しい豚がある。放牧してどんぐりだけを食べさせた、ハモン・ベジョータというやつ。身が締まっていて、香りが良いので生ハムなどとても美味い。ちょっとだけ他のものよりも値段も高い。

シェフは次の日本酒に合わせて、イタリア料理店のくせにハモン・ベジョータを出してくれた。イタリア料理店なのにこれまた感謝。

冷酒を飲み生ハムをつつきながら、最近いろいろなところで定形文のように言っている、「ABWはイベリコ豚みたいなもんだ」というテーマを思い出し、この文章のネタにしようと思いつく。

ABW(Activity Based Working)という考え方が、オフィスデザインにおいて主流になって久しい。仕事内容や気分に合わせて、働く場所や時間を自由に選ぶ働き方で、働き方改革の大号令のもと、生産性を上げたい会社はこぞって導入した。僕も前職ではABWを掲げていくつもの大きなプロジェクトに関わらせてもらって、オフィスの中に食堂やカフェを作ったり、映画を見るスペースや、芝生エリア、お昼寝エリア、ブランコやハンモックなんかまで、ありとあらゆる場所を作り、従来デスクしかなかったオフィスに選択肢をたくさん用意した。ABW、働き方改革といえば大きな仕事になった時代で、オフィスデザインが脚光を浴びるきっかけとなった。ABWを導入したオフィスは、多様な場所が用意されてワーカーがいきいきと働けるようになり、コミュニケーションも良くなって、生産性がまあまあ上がって、僕らも経営者からとても褒められた。

でも、そんな中、コロナ禍で状況は一変した。

テレワークが普及し、オフィスには誰も出社しなくなって、ノマドワーカーではない普通のサラリーマンも自宅やカフェで仕事をし始めた。物理的に監視されなくなったことで副業・複業も一気に増え、会社が従業員を精神的に繋ぎ止めておくことがとても難しい状況になった。ABWの概念は、オフィス内だけでなく街全体に広がる。もうオフィスの中で完結しなくてもいいじゃないか!オフィス内に用意されたカフェっぽいものより、本当のカフェの方が居心地がよい、グリーンを配したオフィスも、公園で深呼吸した方がずっといい。オフィスに行く意味ってなんだっけ?そして、もっと言うと、一つの会社にコミットしてサラリーをもらうことって実はとんでもないリスクなんじゃないか?など、みんなが気づいてしまった。

今、少なくとも僕は、オフィスの中だけで場の多様性を作るようなABWに限界を感じている。僕らオフィスデザイナーがこれまでやってきたことは、会社という柵の中で、ワーカーを気持ちよくどんぐりを食べさせて放牧し(ABW)、いい感じに働いてもらって、美味しく収穫してやろうというイベリコ豚生産のお手伝いをしてきたことにすぎなかったんじゃないかな。柵を越えさせないように、逃がさないように。美味しく収穫するために。

まあ、整然と並べられたテスクに縛り付けて管理するブロイラー型オフィスよりは進化した働き方であることは、認める。
僕は、悩めるイベリコ豚たちと、枠の外の世界もあるんだよ、もっと自由に働こうぜ、と伝え、一緒に柵を越えるための手段や、越えた先の危険や喜びを一緒に悩むことを、この先10年かけてやっていきたい。

それでも柵の中に残りたい超ドMなイベリコ豚ちゃんたちにはとびきりのどんぐりと広々とした牧場をオフィスに用意したらいい。選んで中にいることを決めた奴らはそれはそれでカッコよく、良く働いて幸せにクールに出荷されていくだろう。外に飛び出していくおバカちゃんには、少しでも外の野蛮な世界で死なないようなツールや、手ぐすね引いて待ち構える狼と戦えるような武器を渡せるような場所を用意してあげたい。結果の如何によらず、騙されたり押し付けられたり仕方なくやることじゃなく、自らの働き方を自らが選択できる社会が幸せな社会だと思うからだ。

最後に(営業トーク)

実はワーカーに優しい、というのはタテマエで、生産性を上げまくりそれをできる限り享受したい、が本音の経営者目線バリバリのオフィスは多い。そうではなく、あなたが本当にワーカーのため自律分散型の組織を作り、ワーカーやステークホルダーと一緒に成長していきたい、と願うのであれば、ぜひMINEに連絡をいただきたい。

とことん会話をして、イベリコ豚生産牧場ではない、今までの価値観に縛られない組織づくりとオフィスづくりを一緒にチャレンジさせてほしい。経営者個人が描くシングルバースの世界感をもう少し対話的に民主的に、ワーカーの想いや行動もかなりの確率で組織の行く末を左右するような、マルチバースな社会を目指したい。

「いや、それじゃあ経営はなりたたないよ」という声と戦うために、経営する2社、1社団法人で僕自らも経営者として自律分散の組織を研究して実践している。お会いできたら、まずはその辺からお話できればと思います。

三浦圭太

MINE 代表
一般社団法人 9times9 理事
株式会社 grad. 代表取締役
渋谷区スタートアップデック 不動産部会 部会長
AUN 株式会社 アーキテクト / インテリアデザイナー

店舗 / 商業デザイン事務所を経て2008年から三井デザインテックにてチーフデザイナーとして商業・オフィスデザイン業務に従事。三井不動産本社デザイン、ワークスタイル事業の立ち上げなど三井不動産グループのオフィスデザインを牽引した。

2018年より、自身のデザインブランド「MINE」を立ち上げ、オフィス・ホテルや商業施設、公共施設などのデザイン・ブランディングを行う。

同時にAUN株式会社とヒトカラメディアにて地方課題へのアプローチを開始、ヒトカラメディアではメイン2事業部の事業執行責任者を務める。

2020年からはコロナ禍で変化したスタートアップの不動産シーンに流動性と選択肢を増やすため株式会社 grad. を立ち上げ、合わせて地方課題の発見と、今まで培ってきたテクノロジーサイドのネットワークをビジネスにするための社団法人 9times9を立ち上げて活動中。

2008 -2014  DDA 賞入選 6 作品
2015 日経ニューオフィス推進賞クリエイティブオフィス賞  DSA 賞入選 3作品
2016 日経ニューオフィス推進賞 近畿ブロック賞・DSA 賞入選
2017 Good Design Award Best100
2019 日経ニューオフィス推進賞 クリエイティブオフィス賞
2021 International Design Awards (IDA) 2021
2022 iF DESIGN AWARD 2022
2022 ASIA PACIFIC PROPERTY AWARDS five star

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