私的なオフィス論

こんにちは、バンブー社長です。
今回は、株式会社イトーキでプロジェクトマネージャーをされている相原さんに執筆頂いたコラムを紹介します。

私的なオフィス論
株式会社イトーキ 相原 毅

夏からのモヤモヤ
わたしだけかもしれないけど、任天堂のテレビCMって、見ていてなんだかいつもモヤモヤする。 
大体、家族や仲間で楽しくにぎやかにゲームをする風景が描かれていて、今だと親戚のお姉さんと甥っ子風の二人が、夏の田舎家で仮想スポーツゲームに興じるものがオンエアされている。
「うちのゲームはこんな風にみんなでワイワイやってね!」ってメッセージなんだろうけど、陰鬱な思春期を中途半端な都会で過ごし、イトコにキレイなお姉さんもいないこちらとしては、深夜一人でモニターに向かう自分との落差に、ときどきキョーレツな自己嫌悪に陥ってしまう。

なんてナイーブな青年っぽく書き出してみたけどウソです、こちとら50半ばのビギナー爺、ファミコン登場前の世代です。
言いたかったのは看板と中身がすこーしズレているのだけど、なんかあまり突っ込んではいけない感じ、ほかにもありませんか?ってコト。

たとえば「SDGs」って、個々の取組みや思想が、非常に重要かつ大切なことは十分理解出来るのだけど、
全体の解決に向けて本気で向かっていくとなれば、みんながいま持っている利便利得を相当放棄しないと辻褄が合わないんじゃないの?とかね。
失礼、オフィスにまつわる些事を書かせてもらうコラムでした、屁理屈はこれくらいにして、そろそろ本題に行きましょう。


だいじょうぶ?ABW
当コラムをここまで読み進めて頂いている、意識高い皆さま(嫌味じゃないよ)に対して
Activity Based Working とは何ぞや 
などという説明はヤボだと思うので割愛しますが、いろんなところで見ますよねABW(Wikiで調べてね)。

それぞれの視点やポジションで見え方は違うと思いますが、先進的なオフィスを論じる上では必ずどこかで引っかかってくるキーワードと言えるでしょう。
色々と賛否はありますが、やっぱりABWって、かつてのSECIモデルに匹敵するくらい、オフィス構築において近年まれにみる強力なコンテンツだと思うのです。

「社員が自律的に時間と場所を自由に選択するワークスタイル」
誤解を恐れずに要約するとこんな感じでしょうか? 何とも希望に満ち、パワフルな言葉の組み合わせですよね。
ウェブメディアを検索しても、実際に沢山のオフィス構築の考え方にABWが介在しているし、そのものズバリではないにせよ、エッセンスだけを含めた事例を数えれば、近年の先進オフィスはほとんどがその影響下にあると感じられます。

それゆえ、これからオフィスの移転や改修を考えている社長さんや総務担当の方が、その力強さやキラキラ感に惹かれて、伝家の宝刀のごとく「やっぱABWじゃね?」となるのも当然の帰結かな、と思ってしまうのです。

だがちょっと待って欲しい、そこには「自律」というキーワードが不可欠なことを忘れてはイカンのです。
先程の要約からすると、「社員が自律的に」行動出来ることがまず前提にあり、自律的に行動するが故、適切な時間・場所の選択が可能で、それによって生産性やQOLが向上するってのがあるべき姿でしょう。

だけど、これは結構ハードル高いですよ、自らを律することが出来ている人って、意外と少ないのではないでしょうか?
進むべき方向がわかっているのに楽な方に脚を向けてしまったり、周囲の価値観や都合に合わせて自分を見失ってしまったり。
正直私も全然自信ないです、すぐサボるし、あきらめるし、ふてくされるし(人間だもの)

「自律」出来ていない社員たちに「時間と場所の自由な選択」を与えるとどうなるか?これはもう言わずもがなですよね。
日本の多くの経営者の方々が抱えている懸念もここにあるのではないでしょうか。


上の調査結果からは、経営者の方々が「うちの社員は十分に自律出来ていないから」と判断し、管理型の勤務形態に舵を戻しつつあるのが見て取れる。
しかし働く側、ワーカーの意識はどうだろうか?
ウェブメディア上の各種調査結果を斜め読みしていくと、ワーカーの「自律」に対する意識は非常に複雑だと感じます。
「自律的」に働くことを強く望む一方で、「自律」を求められることの息苦しさや恐れといったものが、ない交ぜになっている状態と言えばよいだろうか? 
要は自信がないんだよね。

自らの仕事を自律的に遂行するには、自身の能力・マインド・価値観・理念だけではなく、それが育まれる/発揮出来る、企業の仕組みも不可欠ではないでしょうか?
いまの日本の社会構造のなかで、大いなるミスマッチが発生しているのが、その意識と構造のズレだと思います。

ワーカーの自律度を高める組織構造、ワークスタイルの変革を進めなければ、先進的なオフィス環境も絵にかいた餅のごとく、無意味なものでしかありません。

未来は明るい?
なんかネガティブなことばかり書いてきましたけど、自律的に働くなかで得られたスキルや、優れたパフォーマンスがもたらすものは、何らかの管理下で得られる喜びよりもずっと大きいはず。
それが個々の成長基盤になれば、企業としてのパワーアップ、ニッポンとしてのパワーアップにもつながっていくのでは、と思います。

まだまだ伸びしろ満載の日本社会、これを読んで頂いている全てのオフィス構築に関わる皆さま!
我々のミッションは崇高にして長大、ともに日々精進致しましょう。

相原 毅
株式会社イトーキ ワークスタイルデザイン統括部 
コンサルティングセンター シニアディレクター

1991年からインテリア設計事務所にてキャリアをスタート。主に丸の内界隈のオフィス移転・改修等を中心にインテリアデザイン設計及びプロジェクトマネジメント、コンサルティングを担当、2020年より現職

2000年~2006年、三菱地所 ビル管理部 新ビルテナント工事請負室に出向、丸の内再開発事業に携わる
主幹プロジェクトにて2010年日経ニューオフィス推進賞、2018年日経ニューオフィス経済産業大臣賞、並びに日本ファシリティマネジメント大賞受賞

工作、エレキベース、自転車、少年野球が好き

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    執筆者:相原 毅    株式会社イトーキ  ワークスタイルデザイン統括部  コンサルティングセンター  シニアディレクター
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